お知らせ 書店で手に取った『みどりといのちの農業原論』が問いかけてきたもの
2025/11/30
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。本日はこの場をお借りして、一冊の本を紹介いたします。
この前書店の棚を眺めていたとき、ふと目に留まったのが『みどりといのちの農業原論』でした。特に理由があったわけではなく、「なんとなく」手に取っただけなのに、読み終えたときには、静岡の食や農の未来について深く考えさせられる一冊でした。
著者の中島紀一さんは、有機農業や自然農法を長く研究してきた方です。けれど本書は難しい専門書ではありません。むしろ、どんな読者にも「農とはいのちをつなぐ営みなんだ」と、ゆっくり語りかけてくれるような温かさがあります。
印象に残ったのは、著者が挑んだ無農薬の米づくりの場面です。草が生え、虫が寄り、思いどおりにいかない田んぼ。それでも著者は、草や虫を「排除すべきもの」と捉えず、田んぼの仲間として受け入れます。
自然を思い通りに動かそうとするのではなく、自然とともに生きるという姿勢は、今の農業が抱える課題へのひとつの答えなのかもしれません。
また本書は、小さな農家や家族農業の価値にも光を当てています。効率化や規模拡大とは異なるスピードで、地域の暮らしや風土を守ってきた小さな営み。効率や規模拡大が重視される今の社会でも、地域に根ざした小さな営みこそが、環境との共生やコミュニティの支えとして大切なのだと語ります。
この視点は、私たちNPOが静岡で目指している方向性―生産者と市民が近い距離でつながり、地域の“農”を未来へと手渡していくこと―と深く重なりました。
これは、私たちNPOの活動とも大きく重なる視点です。静岡市でも、食べる人とつくる人の距離が広がる中で、地域の農をどう未来につないでいくかが問われています。農家の方々の想いを受け取り、市民につなぎ、地域と自然の関係を取り戻していく。そんな取り組みの大切さを、この本はあらためて思い出させてくれます。
読み終えたあと、食卓に並ぶ一皿が、ただの食品ではなく、自然と人の長い時間が折り重なった“いのち”であることに気づかされます。それは、「食べる」という行為を通して、自分の暮らし方までも問い直す機会にもなると感じました。
静岡の未来の食と農を、どんな形で次の世代へ渡していくのか。
この本は、その問いに向き合う最初の小さな灯りになるはずです。